
香港の友人たちが、生まれたときにつけられた中国名のほかに英語の名前を持っていることは、初めて会った10数年前から分かっていた。
香港の歴史を考えれば、英語の名前をつけ、そちらを多用することも推しはかれたので、「どうして、その名前にしたのか?」という質問をわざわざ投げかけたことがなかった。
今回、香港初体験の20代半ばの姪と一緒に行ったことで、初めてそこに触れることとなった。
「イボンヌさんは、葉緑芳と書くんですね。どうして、イボンヌという名前になったんですか?」
広東語、北京語、英語、そして、日本語を自在に使いこなして通訳をしている私の友人で、自称“香港のドラミちゃん”が差し出した名刺に目を落としながら、彼女とは初対面の姪が発した素朴な疑問。横にいた私も、命名の由来は知らなかったので、興味津々で耳を傾けた。
「広東語の発音と似ている英語の名前を探して、子供のころにお兄ちゃんがつけてくれたの」
名字の「葉」は、イプと発音する。名前の「緑芳」は、ロッフォン。
フルネームの「イプロッフォン」から、音が似ているので「Yvonne(イボンヌ)」がいいのではないかと、お兄さんが、幼稚園にあがる妹のために考え出してくれたのだそうだ。
このエピソードのなかで、誰が名前を考えるのかというところにも興味が湧いてきたので、さらに、ふたりの知りあいにたずねてみた。
すると、「私の名前は、お父さんがつけてくれたの」と教えてくれたのは、つい最近まで香港政府観光局で働いていたイバ。「自分で考えました」と答えたのは、同じく香港政府観光局で働いていたことのあるヴィンセントだった。
3人の名刺を並べてみました
イバの場合は、ファーストネームの「綺華」の広東語の発音が、イワ。
小学校に通うようになると英語名が必要になるからということで、お父さんが発音の似ている「Eva(イバ)」を考え出してくれたそうだ。
13歳のころに自分で考案したヴィンセントは、名字の「陳」の発音が、チャン。そこからまず、「Vin(ヴィン)」の部分を考え、次に名前の「聖智」、センチから「cent(セント)」が思い浮かんだので、合わせて「Vincent(ヴィンセント)」に決めたのだという。
それぞれの英語名は正式に登録されているので、IDカードやパスポートにも印字されていて、「Chan Sing Chi Vincent」といった表記になっている。
さらに、耳に新しい話を、ひとつご紹介しよう!
最近、英語の名前ではない人が増えている。それも、日本語の名前を使っている若い女性たちが目立つというのだ。
「Yumiko」「Naoko」「Yuki」といった日本人のような名前が多いというが、単に発音したときの音を気に入っているだけなので、「Yumiko」は由美子さんや友実子さんに由来するわけではないという。目で漢字を見て決めたわけではなく、耳から入ってくる音が、響きとして好みだということらしい。
それから、「Suki」といった日本の言葉。
これも、「好き」という日本語の意味を知っているわけではない。とにかく、音になったときの響きを気に入って使っているのだという。
「このまえ、“キツネちゃん”がいたよ。銀行の窓口で、ネームプレートを見かけたから写真に撮っておいたけど、見る!?」
差し出されたカメラの再生画面をのぞきこんだら、笑いがふたつこみあげてきた。
たまたま名字が「陳」だったことで、発音がチャン。かわいらしい「キツネちゃん」という表現になっていることに、本人は気づいているのだろうか?と想像したら、ひとつめの笑顔になった。
ふたつめは、(やっぱり、キツネ顔なのかな? タヌキ顔だったら、ギャップを感じてしまうかも!)と想像をたくましくしたとき。「Kitsune Chan」のネームプレートの前で、このつぎは顔立ちを確かめてみたいと思っている。
「こういう日本語の名前を使っている人は、“80後”! 1980年代生まれに人に多いの」
「80後」と書いて、広東語で「バッサッハウ」という。
日本でも、生まれた年代によって、多くの人たちが同じような特徴を持っているとして、アラフォーやアラサーなどの呼び名がはやっているが、香港で、そのような話を聞いたのが初めてだったので、とても印象に残った。
これから、「初めまして! マサコです」というように、日本語の名前を使う若者に出会ったら、「バッサッハウですか?」と反応してみようと楽しみにしているところです。